柚子(ゆず)の木

 寒い時は鍋物が一番ですが、鍋を食べると柚子の話を思い出します。柚子の木は、植えたらすぐに実るわけではないそうです。何年か経たないと実がなるか、ならないか解らないそうです。実らない場合は、よく実のなる木の枝を取って来て実らない方の木にひっかけてやると必ずなるそうです。笑い話の様ですが、柚子は何年かキョロキョロしている間に自分がみかんか柿か、いちじくか何かわからなくなるそうです。もちろん本来は柚子ですから、みかんも柿もなりません。数年経つうちに中途半端になって、柚子も実らなくなるのです。そこで「お前は柚子だ」と思い出させる為に他の柚子の木を挿し木したり、実をそこに引っ掛けると、「あっ、そうだ、自分は柚子だったんだ」と思い出してがんばるそうです。柚子を作る方からお聞きしたので本当の話です。

 その話を聞いて人間も似ている所があると感じました。人間が大勢の人の中に入ったら、自分がどんな人間か分からなくなってきて、男性が男らしくなくなったり、女性が女らしさを忘れたり、どちらが男か女か判らない人が多くなってきました。それを突き詰めて行くと、人間自身が本来の人間らしさを忘れているのではないでしょうか。人間も環境が大事です。御神仏の法話を聞いたり、優しい家族や他人が周囲に居たり、良い仕事仲間や先輩がいるなど良い環境の中にいると、人間らしい心が芽生えてくる訳です。御神仏から見られると肉体だけでは人間の形をした動物であり、本当に良い心が備わって初めて人間だと御神仏に認めて頂けます。従って動植物は本来の自分になりきろうと思うと全て環境が大事です。

 ある家の庭に40年以上も植えてある花を咲かせた事が一度もない立派なキンモクセイの木がありました。その後1000坪もある土地を全て更地にして、新しいマンションを建てる事になりました。最後にそこの奥様がキンモクセイに向かって怒ったのです。「あなた何なの?キンモクセイに生まれながら花を一度も咲かせないで、何の為に生まれて来たの?」と木の前でどなりました。すると、その年に狂った様に沢山の花を咲かせました。何十年も中でじっと育っていたの?と思うくらい見事に咲いたのです。木も人間の言葉をしっかり聞いていたのです。世界一のカボチャを作った人も「大きくなーれ、大きくなーれ」と毎日語りかけていたそうです。

 人間は他の動植物に比べ素晴らしい才能をたくさん持っている事を考えると、自分の能力を活かさないと損です。才能を持っている人や頭の良い人に出会うと、自分はダメだな〜と思う事があります。御神仏にお聞きすると「そちはそちだ。世界で自分一人しかいない。どんなにあがいても、たった一人しかいない存在だから、その大切な自分を活かすが良い。鰯(いわし)は鰯にしかならない。鯛は鯛でしかない。鯖は鯖でしかない。鰯が鯛になりたいと思うから無理がある」先程の柚子やキンモクセイの話ではありませんが、本来の自分にもなれずに終わってしまう。もしこの世の中で全部の魚が鯛であったならば、食べ飽きて魚など見向きもしなくなるでしょう。鯖も鰯もあり色々な味を楽しめるから、魚を食べたくなるのです。人間もそれぞれの長所を活かす様に努力する事が大切です。自分自身も大切な様に、他人もみんな大切です。他人の長所も誉め、それを伸ばす事が大事です。私達人間は自他共に全て尊く大切であることを忘れないで下さい。 合掌