苦を逃すな
今、日本で一番話題になっているのは東日本大地震です。死者と行方不明の方々を合わせると3万人近くになっています。いくらお悔やみや激励の言葉を掛けても言葉では言い尽くせない悲しみや切なさがあります。子供達がお母さんや家族を呼ぶ声や姿をテレビの映像で見ると涙が止まりません。亡くなられた方々は、おそらくしっかりとお葬式をされていないと思われます。地震以来、夜中の本堂での修法で、その方々の精霊を招いて引導を渡しました。想像をはるかに超えた方々の魂が集まって来られました。ほとんど毎日行いますが聖天堂で、その事を御神仏にお伝えした途端に、後ろのガラス戸の音が激しく鳴り止まなかったのです。慣れている私でも、さすがに不気味で思わず振り返りました。私に今すぐ出来る事はこの様に引導を渡す事しかありません。さまよう苦しみから少しでも救って上げられたらと心から願っています。
皆様からも寄せられるのですが、義援金は神戸の時と同じ様に本山の醍醐寺で集結して、被害者に渡される事になると思います。詐欺まがいの寄付行為も多いと聞きますので、お気持のある方はこちらにお持ち下さい。長い月日で行いますので一度に寄付されなくても良いと思います。宜しくお願い致します。皆様も報道で見聞きして精神的に落ち込むとは思います。全国的に自粛ムードが高まっている中での余計に日本の経済活動も低下し、経済的支援や救済をする事も出来ません。せめて被害に遭わなかった私達はエネルギーを溜め込んで、必要な時に何らかの形でお役に立ちたいと思います。この後の施食会でも被災者の方々の御供養も致します。
今月はお釈迦様の生誕月です。今迄お釈迦様から様々なお言葉を頂きましたが、私達が人生で何度か遭遇する苦についてのお言葉の中からお話し致します。『人生は万華鏡の中に居るに似通っている。万華鏡の色とりどりがあってこそ美しい形に表現される。自分の気に入った色で染められる時もあれば、暗黒の時もある。その色が気に入らないからと逃げる事は、自分に与えられた修行、つまり苦から逃げるのも同じである。苦から逃げると永遠に苦しみの中から逃れる事は出来ない。むしろ積極的に自ら苦を取り込み、早く脱出する方法を考える方が得策である。苦に出遭ったらしっかりと苦を掴め。信仰は奇跡を起こすものではなく、現状をそのまま素直に肯定する心を養うものである。大忍を大船とし、これをもって人生の苦難を渡るべし。本当に人間らしく生きたいのならば、勇気を持って捨の心に徹せよ。取の心は捨の心の100分の1で良い。真の勇気を持て。この世の幻の品々に心躍らせるな』「若いうちの苦労は買ってでもせよ」と諺にもありますが、自分に与えられた苦から逃げる事によって、来世でその苦は数倍となり行じる事になります。「捨の心」とは欲心を捨てる事です。「取の心」とは生きて行く上で必要不可欠な欲心です。取の心は我欲の心の100分の1で充分だと説かれているのです。
今回の大災害の中で一つ自覚しなければならない事があります。それは災害にも遭っていない私達は今で充分幸せだと言う事です。 合掌